
「債務者がお金を返してくれないよ。どうにかして債権を回収できないかな。」
「だとしたら、債務者が、賃貸人として有している賃料債権から回収するのはどうかな?」
「でも、借主が具体的に誰だかわからないよ。」
「そんなときはね、担保不動産収益執行制度を使うといいよ。」
平成16年の民事執行法改正により、担保不動産収益執行制度が設けられました。
この制度が設けられたことにより、債権者の債権回収が、執行法改正の前に比べてより実現されやすくなった、といわれています。
それでは、担保不動産収益執行制度は具体的にどのような制度なのでしょうか。
以下では、担保不動産収益執行制度の性質、メリット、任意売却との関係性などについて、くわしく説明していきたいと思います。
~目次~
担保不動産収益執行制度ってなんだろう?

担保不動産収益執行制度とは、
不動産担保権に基づいて、裁判所が、その不動産を差し押さえて、その不動産に関する管理人を選任し、その管理人が、家賃の回収と不動産の管理をして、管理にかかる費用や手数料を差し引いて、残った収益を申し立てた債権者に配当する制度
を、いいます。
簡潔に言うと、裁判所が選任した管理人が不動産の賃料を管理して、その賃料を債権回収に充てよう、という制度です。
債権者としては、任意売却と並行して、担保不動産収益執行をすることによって、担保物件の価値の維持および管理を実現を可能にし、高額の任意売却を実現することも考えられます。
担保不動産収益執行制度は、以下のような、手続的な流れを踏みます。
- 担保不動産収益執行の申立て
- 執行開始決定・管理人選任・給付命令
- 差押登記
- 執行開始決定・管理人選任・給付命令決定正本の送達
- 対象物件の調査
- 配当見込みの調査(配当見込がなしの場合、執行開始決定などは取消)
- 補助者選任許可の申請
- 物件管理・賃料の収受
- 管理費用・固定資産税等支払い
- 配当手続
- 債権計算書の提出
- 配当協議
- 配当実施
物上代位ではなく担保不動産収益執行を選択するメリット

担保不動産が収益を生じさせる物権である場合、その担保不動産から生じる賃料をもって債権を回収する方法として、物上代位という方法があります。
物上代位とは、
担保不動産がそれぞれ売買代金、賃料、火災保険金などの請求権に姿を変えた場合、これらの請求権に対し、担保権としての効力を及ぼすこと
を、いいます。判例では、平成元年に、抵当権者による賃料債権に対する物上代位が認められました。
そして、判例において、賃料債権に対する物上代位が認められて以降、債権回収のための有効な手段として、頻繁に物上代位が活用されてきました。
もっとも、物上代位を実行するためには、債権者が賃料を支払う義務のある者を特定する必要があります。しかし、その特定は困難であることから、賃料債権に対する物上代位は、債権回収としての実効性を欠く場合があります。
そこで、担保不動産収益執行を選択するメリットが発生します。担保不動産収益執行の申立ては、物上代位とは異なり、賃料を支払う義務のある者を特定する必要はなく、物上代位におけるデメリットを心配する必要がありません。
また、物上代位は、担保物件からの賃料回収業を債権者自身がしなければなりません。
しかし、担保不動産収益執行の方法によれば、管理人によって、集金から配当まで、さらに担保物件の維持管理まで行われることになります。
したがって、債権者が自ら賃料回収を行う必要がないという点で、担保不動産収益執行を選択するメリットがあるといえます。
もっとも、担保不動産収益執行を選択する場合、管理人に対し、費用を支払う必要があります。
そのため、通常、多少費用を支払っても、配当を受けることが出来る場合にのみ、担保不動産収益執行が選択される場合が多いです。
具体的な場面において、物上代位、担保不動産収益執行いずれの方法を選択するかについては、上記メリットとデメリットを比較しながら、決定することになります。
以下では、いずれの方法が選択されることが多いか、一般的な例をあげておきます。
担保不動産収益執行が選択されやすい物件 | 物上代位が選択されやすい物件 |
・アパートなど借主が多い物件 | ・テナントが少なく管理のしやすい物件 |
・建物の管理が面倒な物件 | ・借主がよくわかった人で、賃料の集金がしやすい物件 |
・テナントや借主の入れ替わりが激しい物件 | |
・不法占有者がいるような物件 | |
・賃料不払いがあるような物件 | |
・担保不動産の管理コスト以上に 収益が見込まれる規模のある物件 | |
・管理者不在の物件 | |
・法的に管理することにより、価値向上が見込まれる物件 |
担保不動産収益執行制度における管理人の業務

担保不動産収益執行手続を具体的に執行するのは、手続上で選任された管理人です。
管理人の資格には、特に制限はありません。しかし、現実には執行官または弁護士以外は不適任と見られています。
そして、管理人は、裁判所から、担保不動産の使用収益権限の権限を付与され、これを行使し、機動的に不動産の管理を行うなうことになります。
もっとも、管理人の権限の範囲は、幅広く、どの程度の行動が権限の範囲内であるか、線引きが難しい、といわれています。
一般的には、賃料の回収、不動産の管理、賃貸借契約の解除・締結などは管理人の権限の範囲内である、と考えられています。
担保不動産収益執行制度のもたらす担保不動産に対するメリット

一般的に、回収不能となった債権の担保不動産について、債務者が新しい居住者を積極的に募集して、入居させることケースはあまり存在せず、そのまま放置されることがほとんどです。
担保不動産が放置されると、担保不動産の管理が行われないこととなり、担保不動産の価値が毀損されることがあります。
しかし、担保不動産収益執行では、管理人が債務者に代わって担保不動産の管理を行います。
そして、管理人が担保不動産の管理を行うことにより、安全確実な管理がなされ、担保不動産の価値が法的に守られることにつながり、担保不動産の価値が向上する可能性があります。
また、担保不動産について、任意売却先をゆっくり探す場合、担保不動産収益執行制度を利用することによって、担保不動産の価値の毀損を防止しつつ、収益を獲得しながら、より高い売却価格を費出してくれる買受希望人を探すことができます。
もっとも、担保不動産が、担保不動産収益執行により、裁判所の管理下に置かれるとなると、担保不動産に対し、マイナスのイメージがつくことから、任意売却における買受希望人が現れにくくなるように思えます。
しかし、担保不動産収益執行を行うに当たり、建物の現況、入居者の状況、情報を完璧に把握しているので、買受希望人の立場から見ると、その担保不動産は安全・確実な物件であるといえるため、マイナスのイメージがつくことはありません。
したがって、担保不動産の任意売却を進める場合には、担保不動産収益執行と並行して行うことが望ましいといえます。
まとめ
さて、今回は担保不動産収益執行制度の概要について、概観しました。
次回は、住宅金融支援機構が関わる任意売却の重要なポイントについて概観したいと思います。
それでは、読んでいただき、ありがとうございました!