ページを選択

「お、破産管財人による任意売却が始まったらしいぞ。あの担保の対象となっている不動産を手に入れたいなあ。」
「だけど、その担保不動産の任意売却の買受人になりたい人、いっぱいいるらしいよ。」
「それじゃあ、私は何をしたらいいんだ…」
「…それはね、破産管財人に任意入札の実施を依頼することだね。」

債務者が破産した場合、担保権者破産管財人との交渉次第で、担保不動産を任意売却することが出来ます。
そして、不動産業者などその担保不動産の取得を望む者は、買受人として任意売却に参加し、その担保不動産を取得することになります。


しかし、その担保不動産の取得を望む競合者が多数いる場合、買受人になることを望む者は、破産管財人に対し、何をすべきでしょうか。

その答えは、

「担保不動産の任意入札」

の依頼です。


任意入札によれば、競合者間で公平かつ迅速に、誰が買受人になるか、売却価格はいくらになるか、を決定することが出来ます。

担保不動産の任意入札を選択するメリット

入札とは、

同一条件で、他人数に競争させることにより、最も有利な札を入れた人に、その交渉の権利を優先的に与える方法

をいいます。いわば、オークションのようなものです。

買受希望者が競合する場合、一人が先に買受希望価格を述べると、その価格を基準として価格がどんどん吊り上がっていき、不公平になるケースがままあります。また、先に買受希望価格を述べた買受希望者は、他の買受希望者から見れば、価格を釣り上げた張本人と見られ、不当な評価を受けることとなります。

そこで、任意入札を選択するメリットが生まれます。
任意入札によれば、入札日を決めて、文書で同時期に札を入れることから、入札参加者は、お互いの入札内容を知ることが出来ず、公平を保つことが出来ます。

また、任意入札によれば、入札期間が決められるため、計画通り任意売却が進められやすいです。
さらに、任意入札によれば、入札者間で競争心理が働くため、債権者にとっても思わぬ高値の売却価格が決定されることもあり、有利に働きます。

担保不動産の任意入札の手続的な流れ

任意入札の手続的な流れは、以下の通りです。

1.破産管財人との交渉

まず、事前に他の買受希望人に対し送付する「任意入札のご案内」の原稿を準備して、破産管財人のところ、任意入札の実施のお願いをしに行きます。「任意入札のご案内」の差出名義人は破産管財人ですが、原稿のたたき台を作成するのは買受希望人です。

この「任意入札のご案内」のたたき台をベースに、

①破断財団に任意売却代金の何%を入れるか
②売買契約書をどのような手順で作成するか
③入札期日、開札日、決済日をいつにするか
④最低売却価格をいくらにするか
⑤開札の方法、決済の方法をどうするか

といった、細かな部分の打ち合わせを行います。

2.最低売却価格の決定

最低売却価格とは、任意入札における任意売却価格の底値をいいます。最低売却価格を決定する場合、不動産の鑑定評価書(簡易鑑定)を取得するのが基本となります。
そして、取得した鑑定評価書から算出された時価、処分価格、競売予想価格などを参考にし、事前に購入希望者の購入希望価格がある程度明らかとなっているのならば、その価格を参考にしながら、破産管財人と協議して最低売却価格を決定します。

もっとも、最近の破産管財人が主導する任意売却では、最低売却価格を決めないで任意入札を行うケースもあります。
その理由として、最近では、任意売却における任意入札が広く一般に行われるようになったことから、相応な臨場感での入札が可能になったことがあります。また、任意入札のご案内に担保権者が同意する価格に満たなかった場合は、入札不成立との一文を挿入することで、低すぎる価格での売却のリスクを回避できることも、その理由として挙げられます。

3.担保権者との事前交渉

任意入札を実現するにあたり、任意売却をするにあたって作成された配分案をもとに、後順位担保権者などの他の担保権者との間で、担保解除料などの了解を取っておくことが必要です。それにより、後の事務をスムーズに進めることができます。

4.入札希望者の募集

事前に買受希望人に対し、「任意入札のご案内」を渡すだけでなく、不動産業者などに広く情報を流すことが、入札者を増やし、できるだけ高く入札してもらうために望ましいです。入札者を増やすためには、不動産業者の協力が欠かせません。
また、事前に破産管財人の了解をとって、破産者側の負担で、不動産仲介手数料を費出し、入札希望者を集めるという場合もあります。破産管財人にとっては、破産者の負担で仲介手数料を費出することに抵抗があるように思われます。

しかし、不動産業者を有効に活用することで、より高値で任意売却をすることが出来れば、破産者側にとってもメリットとなります。
そのため、破産者側が不動産仲介手数料を負担する場合があります。
この入札希望者の募集の場面が、円滑かつメリットの大きい任意売却を実施できるか、腕の見せ所といわれています。

担保権消滅許可制度ってなんだ?

従来、任意売却を実行する際は、その売却代金を破産者側に組み入れる額の大小や、配当を受けることが出来ず担保解除料(いわゆるハンコ代)しかもらえない後順位担保権者との粘り強い交渉が必須でした。
そのため、その交渉が上手くいかず難航し、任意売却の円滑な実現が妨げられることが多々ありました。

そこで、破産法改正により、担保権消滅許可制度という制度が設けられました。

担保権消滅許可制度とは、

破産管財人による担保不動産の任意売却において、裁判所の許可の下で、強制的に担保不動産に付着するすべての担保権などを消滅させ、その売買代金の一部を破産者側に組み入れ、残りを担保権の順位に従って配当する制度

を、いいます。

これにより、担保解除料について合意を得ることが出来ない後順位担保権者が存在していたとしても、不当に高額の担保解除料を請求する後順位担保権者を排除することが可能となり、破産管財人による任意売却を進めることが可能となりました。
そして、破産管財人は、担保権消滅許可制度の利用をちらつかせながら、配当の見込まれない後順位担保権者と交渉することによって、常識的な担保解除料で決着をつけることが可能となりました。

以下では、簡易化した事例を用いて、説明します。

○担保不動産所有者破産管財人弁護士
○担保不動産の時価総額6000万円
○競売想定価格4000万円
○担保権者第1順位 A金融被担保債権額4000万円
第2順位 B銀行5000万円
第3順位 C信金2000万円

時価6000万円の不動産にA金融、B銀行の担保権が合計9000万円、さらにC信金の担保権が2000万円ついています。
この不動産の任意売却の相手方として、5000万円での買受希望者が現れました。破産管財人は、不動産仲介手数料当の費用300万円を差引いた配当可能額4700万円について、以下の配分で任意売却を進めたい、と担保権者に対し、提案をしたとします。

○破産者側への組入金(売買代金の10%)500万円
○担保権者に対する配当
第1順位A金融4000万円
第2順位B銀行180万円
第3順位C信金解除料20万円
計 4700万円

この提案に対し、担保権満額の配当を受けることが出来る第1順位担保権者のA金融からはすぐにOKの返事が来ましたが、後順位担保権者であるB銀行、C信金からは、次のような回答が来たとしましょう。

B銀行「売却価格5000万円は安すぎます。また、組入額も売却価格の10%は常識にかけ、5%程度が妥当です。」

C銀行「解除料20万円は安すぎます。最低でも100万円はいただけないと、担保権解除には応じません。」

ここで仮に、任意売却価格が5000万円が妥当であると考える場合、手続はどのように進行するでしょうか。
以下では、3つのパターンを説明します。

1.担保権消滅請求がそのまま進行したパターン

破産管財人によって、担保権消滅許可の申請がなされると、その旨がすべての担保権者に対し、送達されます。
そして、送達後、すべての担保権者が何ら対抗手段をとらず、1カ月が経過すると、破産管財人が探してきた買受人と自動的に売買契約が成立し、裁判手続に従い、売却代金の配当が行われます。

そして、本事例で、消滅請求がそのまま進行すると

破産者側への組入額500万円
第1順位 A金融4000万円
第2順位 B銀行200万円
第3順位 C信金0万円
計 4700万円

との形で、配分されこるとになります。
任意売却の場合とは異なり、C信金への配当金ゼロとなります。

2.担保権者による競売の申立てがなされたパターン

破産管財人による担保権消滅許可請求では、不服のある担保権者に対し、対抗手段を与えています。その1つが、競売の申立てです。
競売とは、裁判所を介して、不動産を強制売買することをいいます。裁判所に対する競売の申立ては、担保権消滅許可の申請がされた旨送達されてから、1カ月以内にすることが求められます。

そして、本事例で、競売がなされると

破産者側への組入額0万円
第1順位 A金融4000万円
第2順位 B銀行0万円
第3順位 C信金0万円
計 4000万円

との形で、配分されることになります。
任意売却の場合とは異なり、B銀行、C信金への配当金はゼロとなります。

3.担保権者から買受申出があったパターン

不服のある担保権者は、競売の他、買受申出という対抗手段が与えられています。
買受申出とは、担保権者に対し、担保権消滅許可が申請された旨送達がされてから1カ月以内に、担保権者が破産管財人が予定する任意売却の価格から諸経費を控除した価格の5%以上超えた金額で買受ける旨を申出ることをいいます。

本事例では、破産管財人が探してきた買受希望人の買受希望価格5000万円から、不動産仲介手数料当の費用300万円を差引いた4700万円が基準となります。ここで、B銀行が5500万円の買受希望人を探し出してきたとします。この価格は、4700万円と比較すると、105%を超えた価格となります。

そして、本事例で、買受申出がなされると

破産者側への組入額0万円
第1順位 A金融4000万円
第2順位 B銀行1500万円
第3順位 C信金0万円
計 5500万円

との形で、配分されることになります。
任意売却の場合とは異なり、B銀行の配当金はゼロとなります。

まとめ

さて、今回は、破産管財人による任意売却の諸手続について、概観しました。

次回は、マンションの任意売却の重要ポイントについて、概観していきたいと思います。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました!

その他の任意売却に関する情報はコチラ!